当月の氷壺集・氷室集より尾池葉子抄出
氷 筍 集 九月号 2024
足袋裏の破れまちまち夏祭 朝田 玲子
樹齢不明のオリーブの花パレスティナ 大石 高典
肝心の言の葉いづく落し文 齋藤 亜矢
麦飯の麦そろと除けお仏飯 前田 鈴子
ガラス器に香の立つ小夏ゼリーかな 植田 清子
今日ひと日雨読と決めて新茶汲む 田崎セイ子
芭蕉布の今や民族舞踊の衣 福地 義雄
野上りに遠き笛の音半夏生 小堀 恭子
群青の帳じんわり夏の川 宮坂 美緒
独り居に葱の香りや冷奴 田中 白秋
青葉木菟啼いて山の子眠りたる 柳堀 悦子
叱られし口癖またも額の花 有岡 萃生
仁淀ブルーとや囮鮎きらきらと 宮坂 千種
下駄履の打水うれし土の道 山本 京子
風鈴や踊るやうなる猫の伸び 幸城 麗子
長梅雨や昨日と傘の色を変へ 城戸崎雅崇
仙人掌やほつたらかしが母の技 斎藤よし子
青々と雲吐く山や梅雨晴間 原 順子
ひがら鳴くビルの谷間に朝を告げ 森 裕子
蜘蛛の子を散らすを試すこととなり 秋山 陽子
朝凪や帆を張る舟の影動き 小長井 敬
木曾馬の尻の光れる炎暑かな 鈴木 大輔
時の流れ速しと励む草むしり 篁 宗一
ご褒美のプリン冷蔵庫の奥へ 大畑 照子
苗打に熟練の技ありにけり 河村平右衛門
荒地荒畑普く降りし緑雨かな 小堀 尚美
山よりの風に江戸風鈴応へ 中村 淳子
菊芽挿す畑に雨の待遠し 田辺美千代
母さんと呼び桔梗の花を採る 山口 容子
バスにても地震速報夏の雲 齋藤 耐
聞香の席の暑さを忘れけり 相原 弘子
梅雨入や賞味期限に虫めがね 細見 昌代
平日の小旅行めき花菖蒲 杉浦 康子
蛍飛ぶ川辺や星座描くごと 松村 滋子
木洩日の草に伏したる子鹿かな 矢野 裕俊
をさなごがすすずらんを愛で雨の中 米倉 大司
梅雨空や並んで傘のぴよこと礼 大村 誠 37句
当月の氷壺集・氷室集より尾池葉子抄出
氷 筍 集 八月号 2024
食痕の右に左にかたつむり 齋藤 亜矢
舫綱放つ太腕夏に入る 朝田 玲子
歩く人みな魚に見え半夏生 大石 高典
旅人と旅に出会ひし大瀑布 川内 一浩
緑蔭の一部と化して憩ひけり 加藤 剛
初夏の空をダム湖の蒼さとす 植田 清子
若き僧の読経短し葱坊主 立石 律子
芍薬や吾がとらはれの絵筆持つ 友永基美子
茶畑をぬけて茶畑青嵐 宮原亜砂美
地を這ふも草のいのちよ夏きざす 加藤 広文
朝まだき牡丹崩るる無音劇 福 のり子
ぎうと目をつむりごくんとひきがへる 福田 将矢
俊成の旧邸に射し夏の月 細見 昌代
写真の児のてんでばらばら端午の日 宮坂 美緒
菖蒲湯へどぼんと兄は兄らしく 宮坂 千種
御神輿や少うしあとについてゆく 斎藤よし子
氏子たらんと鯖鮨は遺したし 谷口 文子
梧桐は河川整備に伐られけり 中井 昭雄
靴底に鳴る白砂や夏の山 大辻 都
真夜中の買物籠や冷奴 田中 勝
屋上の国旗動かぬ梅雨の入 碓氷 芳雄
浸食に上流へずれ滝の位置 西澤 勝
おつきりこみ鍋一杯や春寒し 櫛渕かりな
鵜一羽ぶつきらぼうの羽音立て 髙橋 房子
五月二十日九十五歳誕生日 加藤 節江
青鷺の影を大きく飛び来たる 城戸崎雅崇
移ろひのなかの卯の花腐しかな 古閑 裕海
恐竜のゐるごと藪の青嵐 田辺美千代
千年の杉の鼓動や初夏の風 中村 淳子
風神と力合はすか青嵐 山田ミチ子
オリーブ油に沈め鮮やか実山椒 國兼 弓華
はんざきを見てきしことは語らざる 有岡 萃生
行水や月影漏るる片庇 土居 郁雄
若葉雨まどろむときは遠くなり 矢野 裕俊
鯉のぼり絶滅めくよ鄙の空 塚本 郁子
開けられぬまま父の日のプレゼント 幸城 麗子
梅雨きざす屋根打つ音に鳥のこゑ 大村 誠 37句
当月の氷壺集・氷室集より尾池葉子抄出
氷 筍 集 七月号 2024
琥珀めく甘き樹液よ桜どき 齋藤 亜矢
会ふといふそれのみのため春袷 牧田満知子
野にゐるも枝にさわぐも春の鳥 加藤 剛
搬入のリネン真白や夏近し 朝田 玲子
秒刻む音の無機質アイスティー 碓氷 芳雄
地震あり蛍烏賊湧く夜の海に 大石 高典
夜桜や明治の世より露天風呂 森川恵美子
春雨の雫や星の落つる音 田中 勝
惜春や民宿閉づる草の中 田崎セイ子
鰊焼く煙の中に母のゐて 立石 律子
光陰の矢を止めて欲し日向ぼこ 友永基美子
苗床の狭しとばかり古代米 丹羽 康夫
山野草探し落花の山の道 鳥居 裕子
行きますと一語しづかにお松明 小嶌 和
屋久島と名のつく蛙また轢死 福田 将矢
菜の花や正門前の書店跡 有岡 萃生
永き日の海や波あること忘れ 片岡 和子
御朱印の筆なめらかや春の風 田中 白秋
囀に重なりてくる木遣節 石上 敦子
茶摘籠下ろし仰げばまた新芽 美崎 昌子
アスパラガス山を越えれば会津領 髙松 房子
穴窯の炎心白し桜の夜 柳堀 悦子
アネモネや最終章は明日に読む 城戸崎雅崇
ざわざわと囁くごとき穀雨かな 原 順子
春祭の火縄の音が響きけり 石田 信之
車座の児に読みきかせ春の風 井本 陽子
あやしゐる母の幼児語あたたかし 大野 邦夫
エンジンの音軽やかに草青む 河村平右衛門
背丈より長き釣竿風光る 小堀 恭子
日記繰る種薯植うる段取りに 田辺美千代
黒門を開き醍醐の花見かな 石原ゆき子
初蝶の羽遣ひのまだ定まらず 幡山 杏
半島の先へ先へと山桜 細見 昌代
うららかや古傷はなほ鮮やかに 寺川 貴也
新緑の夜へ出て行くよ家の猫 小川 妙子
雑念の流れにまかせ花筏 宮坂 千種
海豚群れ漁師泣かせの春の海 杉本 伸一 37句
当月の氷壺集・氷室集より尾池葉子抄出
氷 筍 集 六月号 2024
春星に遊ぶや指をコンパスに 加藤 剛
忍び笑ひ漏るる雛壇かくれんぼ 朝田 玲子
なづるごと売家の垣を繕ひぬ 牧田満知子
山笑ふ君へジョークのひとつ欲し 川内 一浩
蕎麦啜る音高くなり春半ば 河村 純子
一服の煙草分け合ひ畑を打つ 大石 高典
ものの芽の三種加はる夕餉かな 中島 冬子
安寧とふ言の葉響きあたたかし 大野 邦夫
冬尽くに今日もまた本読まずなり 加藤 広文
四つ切にバター滲み入る春の雨 有岡 萃生
勢ひを五湖へ増すとき雪解川 田辺美千代
注意引く踏切そばの黄水仙 宮坂 美緒
二駅の市電の旅へ春の朝 石田 信之
校庭に足あと残し春の鳥 小川 妙子
土塊の荒きままなり田水張る 髙橋 房子
赤い牡丹挿して花瓶の笑まふごと 加藤 節江
花人や馴染みの鳩が肩に寄り 齋藤よし子
もの思ふ日の春風の強きとも 古閑 裕海
巣を狙ふ鳥を振り切り春の鳶 坂 利美
天気図にお日様マークあたたかし 大畑 照子
伴奏の師の涙見ゆ卒業歌 小堀 尚美
春泥を脱ぐにぽこんと残る靴 福江ちえり
厨ごとを夢に精出す朝寝して 前田 鈴子
春の夜の波の響きの籠る宿 山口 容子
お水取の奈良へ若狭の水送り 山田ミチ子
花色に染め遊びして桜どき 國兼 弓華
春浅し明智が藪の遠音聞き 幡山 杏
春日射す強さに背ナを押されゆく 藤木千惠美
南無観と修二会の夜更け声深し 細見 昌代
あけぼのや遍路の寺に海近き 松村 滋子
胸ひらくやうに北窓ひらきけり 片岡 和子
菰はづすとき暖冬の虫の数 米倉 大司
よくとほる雲雀のこゑに空の晴れ 塚本 郁子
啓蟄や田畑の仕事にはかなり 宮坂 千種
能登地震のボランティアにて春の雪 杉本 伸一
クレーンの運ぶ大樹や植木市 玉元 庄弘
煌々とイペーの花に星の数 津嘉山 典 37句
当月の氷壺集・氷室集より尾池葉子抄出
氷 筍 集 五月号 2024
土地の子は気に留めざりし蜃気楼 朝田 玲子
年男とて切りの良き年の豆 丹羽 康夫
早春やビルの間に間を雲流れ 齋藤 亜矢
弱法師この花と言ふ梅咲きぬ 小嶌 和
春浅し小さく揺るる縄のれん 片山 旭星
雪の朝小澤征爾と指揮棒と 植田 清子
手加減のなき園児らの鬼は外 佐藤 慎一
背筋伸ぶる久の参詣報恩講 田崎セイ子
折りたたみ利かぬ膝持ち冬座敷 友永基美子
めだか去ぬ田螺も去ぬと春の池 宮原亜砂美
切除せし乳房重しや冬深し 福 のり子
小面の眉のあたりや初明り 田中 白秋
海鼠突く漁師の影の傀儡めき 加藤 広文
銀幕の恋ぐづぐづと日脚伸ぶ 牧田満知子
入学す部屋の主と言ひながら 中井 昭雄
雪の富士引き締め宝永山火口 新藤 克彦
低気圧のおきまりの果春の雪 西澤 勝
妻の置く雪うさぎなり卓の皿 城戸崎雅崇
頭痛外来五時間待ちの春浅し 斎藤よし子
初春や足袋九寸の女形 古閑 裕海
鬼棲まぬゆゑ豆撒はせぬ追儺 坂 利美
一陣の風に壊るる薄氷 大畑 照子
地震に傾く部屋より眺む春の海 小堀 恭子
嚙み締むる福豆ひとつ多くあり 中村 淳子
揚雲雀さうは言うても我が畑 前田 鈴子
節分や榧の葉焼べて占ふも 森 幸子
田の草の吾を呼ぶごとき雨水かな 山口 容子
聴いてほら木の芽ふくらむ音すなり 相原 弘子
雪晴の富士に宝永山の窪 松村 滋子
山積みの薪の芳し冬籠 杉浦 康子
秋の田や石碑の欠けし古戦場 土居 郁雄
馬鹿貝と呼ばれ旨しと喰はれけり 片岡 和子
グラウンドに猪の足跡冴返る 小川 妙子
春風をドクターヘリの巻き上ぐる 大村 誠
気をつけてお熱いうちに蕪蒸 宮坂 千種
飛梅や隠棲の地の勇歌碑 宮坂 美緒
急坂の辛さ忘るる霧氷かな 杉本 伸一
当月の氷壺集・氷室集より尾池葉子抄出
氷 筍 集 四月号 2024
初星やおほなゐの地へ届けたし 朝田 玲子
鷽替の木の香新し鳥はうそ 西五辻芳子
年の瀬や理解半ばの数学書 加藤 剛
探査機を据ゑ凍月の昇りけり 石原ゆき子
小春日の川を渡れば隣町 川内 一浩
同じ姓となり恋人と初写真 福田 将矢
手土産にどうぞと言へば大根抜く 伊東 弥生
如何にせぬ納屋に転がる火吹竹 加藤 広文
昼の間に片目落ちたる雪達磨 大畑 照子
元旦といひ白鳥に会ひに行く 西澤 勝
笹の葉をはらりはらりと雪の花 櫛渕かりな
まだ文字は書けると書初の用意 加藤 節江
鴛鴦の尻高くあげ水探る 城戸崎雅崇
大寒や工事の音の乾きたる 羽尾 芳樹
箒の役終へてゆつくり大晦日 森 裕子
書の行方追うてどんどに煽られて 秋山 陽子
籠掃除の鸚鵡を肩に日向ぼこ 石田 信之
山門も注連縄飾欠かさずよ 小長井 敬
丹頂の息のほのめく雪の原 新藤 克彦
水垢離の堂護る後ひよんどり 丹羽 康夫
的ねらふ静寂の中の寒稽古 河村平右衛門
神々の綾取糸か冬の虹 中村 淳子
なにはしかれ能登に陽のある春を待つ 森 幸子
雪催と源氏一巻読み返す 山口 容子
冬薔薇に気づき止めたる口げんか 山田ミチ子
絹針のごときらめきぬ冬の雨 國兼 弓華
蔀戸の透間をくぐり日脚伸ぶ 林 剛
斑鳩に電車の光る冬の朝 藤木千惠美
頭芋の見得切るごとし京雑煮 細見 昌代
床飾り母の手縫ひの羽子板も 山本 京子
護摩を焚く僧のそびらよ淑気満つ 松村 滋子
日脚伸ぶ父の蔵書の付箋跡 有岡 眞一
寅彦忌明けて元旦能登地震 大村 誠
北ベトナム古城の跡の冬いちご 宮坂 千種
あれもこれも母の料理は風邪薬 宮坂 美緒
賛美歌の声かすれたり虎落笛 玉元 庄弘
数の子の音も馳走と響かせて 津嘉山 典
当月の氷壺集・氷室集より尾池葉子抄出
氷 筍 集 三月号 2024
名刺出す手のもどかしや雪時雨 碓氷 芳雄
穴に入る獣もろとも山眠る 仁田 浩
冬の夜や雨のすぢ引く街路灯 加藤 剛
古家に客用のありちやんちやんこ 中島 冬子
小面の俯くかげり冬深し 谷口 文子
焼藷まづ二つに割つてみせにけり 城戸崎雅崇
賛美歌の窓青白き雪明り 福江ちえり
今日の疲れ溶けゆくやうに冬夕焼 植田 清子
思ひ出し書く隙のあり古日記 大野千鶴子
みぞれ降る戦乱いまだ絶えざるも 加藤かず子
冬至冷さ大和人また寒さ言ふ 福地 義雄
胸きゆんと踏むまつさらの霜柱 前田 鈴子
鳴龍のこゑの確かや冬日影 朝田 玲子
まづ香り立つる夕餉の蕪蒸 鳥居 裕子
しみしみと闇の生るる霜の声 福 のり子
初しぐれ鈴つけて行く杖ひとつ 田中 白秋
煤払終ひは我を払ひけり 杉浦 康子
寒行や誦経の僧の黒マスク 加藤 広文
山を追はれ熊は冬眠できぬとぞ 井本 陽子
寒風が波を摑みて島を打つ 片岡 和子
羽根の影また薄くなり冬の蝶 小堀 尚美
注連綯ふに乾きし指のよく動き 秋山 陽子
翁坐す熊の毛皮よ囲炉裏端 石上 敦子
島へ渡る白波越えて鳰の湖 石田 信之
白は白に見えて術後や初景色 伊東 弥生
箱罠のまはりの跡は猪の群 新藤 克彦
運転は昼と決めゐて暮早し 松澤 博子
熱燗や肴は皆が持ち寄りて 大野 邦夫
多彩なる灯のこぼれたり冬の川 齋藤 耐
草光る青女歩みし夜明とも 小川 豊子
時雨来と鴉飛び立つ夕まぐれ 幡山 杏
川普請いつもの鴨のありどころ 林 剛
参拝の干支はや変り師走なり 藤木千惠美
勉学に近道はなし熊楠忌 寺川 貴也
子を待ちて鍋仕込む夜の虎落笛 小川 妙子
物干しの日差しにゆだね吊柿 宮坂 美緒
古日記捨てて記憶の失せにけり 田崎セイ子
当月の氷壺集・氷室集より尾池葉子抄出
氷 筍 集 二月号 2024
石段へ満干のしづか鯊日和 朝田 玲子
二次元の水分け三次元の鴨 齋藤 亜矢
脱ぎし靴乱れてをりぬ近松忌 河村 純子
空缶の転びゆく夜や牡丹鍋 碓氷 芳雄
草叢へ草の傾き秋惜しむ 加藤 剛
山城の堀切深し草紅葉 森川惠美子
闇へ雲を引きずるやうに冬夕焼 片山 旭星
木星に向うて帰る暮の秋 石原ゆき子
風邪の子のひたひに母の額かな 大野 邦夫
見得切るも夜は淋しかろ菊人形 加藤かず子
世語りの更けて囲炉裏のしんしんと 田崎セイ子
十色の鉛筆いろに冬の薔薇 友永基美子
すべからく神に頼れぬ神無月 中井 昭雄
むささびや闇の濃くなる奥武蔵 柳堀 悦子
夜神楽に行ずりの膝寄せ合うて 片岡 和子
親方の気配消したり松手入 仁田 浩
てのひらの雪虫解けてしまひさう 伊東 弥生
白足袋を異国の雨に濡らしけり 谷口 文子
星流る兎は庭に跳ねてをり 玉元 庄弘
冬の夜や駆くる天馬の銀の道 田中 勝
伝言なき伝言板や落葉どき 細見 昌代
牡蠣食べて翁忌ひと日すぎにけり 西澤 勝
冬の夜のジャズの音深しニューヨーク 櫛渕かりな
あの猫の重さなくなり羽蒲団 原 順子
糠床の仄かに温し冬の朝 石上 敦子
心地よき大阪弁や冬ぬくし 新藤 克彦
毒成分水溶性よ月夜茸 丹羽 康夫
小春日の着信音は風の音 坂 利美
くづる子と外に出て眺む冬銀河 小堀 尚美
沢庵の重石持てなくなりにけり 森 幸子
小春日や畑に友は猫連れて 山田ミチ子
振袖の赤や橘黄ばむ候 佐藤 慎一
朝一番ストーブ前の陣地取り 杉浦 康子
牡丹焚く供養の慣とふ庭師 西五辻芳子
愛犬の星もあるかや冬の星 大村 誠
行き合ひし犬に名を問ふ秋の暮 宮坂 美緒
甌穴の渦に落葉の描く円 杉本 伸一
当月の氷壺集・氷室集より尾池葉子抄出
氷 筍 集 一月号 2024
満月や地球は青く傾きて 齋藤 亜矢
学生の交代に摺るとろろ芋 大石 高典
擂鉢を押さへる役目とろろ汁 仁田 浩
剝きくれし梨のいびつよ枕辺に 朝田 玲子
間の悪き虫はをらずと師匠の語 河村 純子
長き夜の天井板に鬼の笑み 森 壹風
中州いま流れつきたる蕎麦の花 中島 冬子
もう少し生きてみようか夕月夜 川内 一浩
小袋を解くや零余子の青臭き 福江ちえり
チェロの音を耳に預けて秋の午後 石原ゆき子
末枯に時の流るる速さかな 大野 邦夫
秋の燭その一灯に千の黙 栗原 一代
初時雨ひとつ用事を思ひ出し 田崎セイ子
稲刈りて締の食卓うづみ飯 森 幸子
茄子抜きし畑の乾きゆく匂ひ 加藤 広文
秋の蚊を討ちて念仏唱へけり 新藤 克彦
炉の灰の労をのぞくも風炉名残 藤本千惠美
内定の祝ひ新酒のコップ酒 西澤 勝
秋の山へ蛭対策の塩を持ち 森川惠美子
小さき虫呼び集めたり女郎花 城戸崎雅崇
秋の夜や万灯並ぶ鬼子母神 小渡 容美
気合ひ入るる角帯たたき秋祭 秋山 陽子
蔓見つけたりと夕餉にとろろ汁 井本 陽子
餌の数ほど多いらし百舌鳥の恋 住田 祥子
選ばれぬ葡萄そのまま肥となり 丹羽 康夫
英訳はオクラなりけり秋葵 原田久仁一
秋寒し閉める襖の御所車 小堀 恭子
月のこと話すに婆のていねい語 山田 ミチ子
木曾はいま山より紅葉かつ散りぬ 山崎こうじ
寝転べば闇のまばゆき月見かな 國兼 弓華
稚泣けば犬の寄り添ひ秋の夜半 藤本 隆子
硯洗ふ今宵は月のなかりけり 山中伊蘭子
目薬が恃みの読書赤まんま 山本 京子
押入の発掘めくよ冬支度 片岡 和子
栗ひろひ負けじと籠をふたつ置く 米倉 大司
逆髪の能のやうなり箒草 宮坂 美緒
寿の文字に墨磨り文化の日 玉元 庄弘