氷釈の章


2021年7月

  氷釈の章        尾池和夫選
                     霞袂集
故郷に似て坂多き町燕来る       友永美代子
剪定や先祖返りの新葉出て         尾池葉子
蝶よそこは二十歳に逝きし兵の墓      長野眞久
花まつり稚児の仕上の位星         大島幸男
春愁や生き足りしとも足りぬとも      原  稔

                     氷凌集
ヘルメット脱げば甘党花の昼        中嶋文子
フェルメールの窓辺は左春日影       四宮陽一
嵯峨御所の池に島かや花筏         重富國宏
かげろふや基地建設の地に遺骨       宮城節子
嗣治の乳白色や春闌くる          伊藤武敏

2021年6月

  氷釈の章        尾池和夫選
                    霞袂集
流れ行く雲は何処へ麦の秋       友永美代子
包みても水のこぼるる磯菜摘       尾池葉子
椿浮くあたりへ投げて鯉の餌       長野眞久
鴨引きて年縞残る水月湖         原  稔
春泥の長靴のまま数学者         余米重則

                    氷凌集
荒川の草焼く原や風は火に        伊藤武敏
燻製の煙の香る雪解道          中嶋文子
涅槃図の壁一面の悲嘆かな       吉田多々詩
竜天に登り解けたるわだかまり     佐藤美智子
蝶生る空の高さをまだ知らず       渋谷啓子

2021年5月

  氷釈の章        尾池和夫選
                     霞袂集
雛飾る卒寿の小部屋艶めきて       友永美代子
氷河期の名残の池よ蓴生ふ         尾池葉子
古草の身を起したる日差かな        長野眞久
大陸の砂が層なす雪の壁          大島幸男
彫像の鼻先にある余寒かな         余米重則

                     氷凌集
落日のはやき山間楮干す          伊藤武敏
黒鍵の角の磨り減り寒の朝         中嶋文子
切落とす林檎の枝や木の根明く      髙橋キセ子
密室を作り上げたる春の雪         四宮陽一
くゆらせるやうに出でたるしやぼん玉    大口彰子

2021年4月

  氷釈の章        尾池和夫選
                  霞袂集
久女忌や窓を揺がす風の音     友永美代子
初富士や白帆と見ゆるものはなく   尾池葉子
猫の皿に日の当りをる三日かな    長野眞久
みづうみはわが町のかほ初景色     原  稔
暗きより寄せ来る浪や初茜      岡橋啓二
 
                  氷凌集
水鳥の棲処ぞ埋めたつる重機     伊藤武敏
せつかちと言はるる口調浮寝鳥    大口彰子
すつてんと独りずまふや凍つる朝   中嶋文子
吉凶はごまめの味の出来不出来    重富國宏
三歳の気ままたふとし初詣     佐藤美智子

2021年3月

  氷釈の章        尾池和夫選
                     霞袂集
幾度も自問自答の十二月         友永美代子
鳰ここより瀬田は川の波          尾池葉子
万星の凍てて大地にある微熱        長野眞久
振返りつつ歩み去る冬の鷺         大島幸男
枯蓮や鈍角ありて鋭角も          余米重則

                     氷凌集
メルカトルの世界地図かけ冬ごもる     伊藤武敏
労きの肩沈めたる柚子湯かな       吉田多々詩
達筆の墨の香円き漱石忌          大口彰子
極月の海より暮るる離島かな       屋嘉比順子
顔見世に大向うなき楽日かな        四宮陽一

2021年2月

  氷釈の章        尾池和夫選
                     霞袂集
石橋のまなかの窪み露凍る         尾池葉子
神の旅かの狼を供として          長野眞久
凩やつひに根付かぬ一樹あり        大島幸男
気嵐を切り裂く音や漁船          岡橋啓二
浮玉の網の朽ち果て冬の浜         余米重則

                     氷凌集
奥利根は石ごろごろと水の秋        伊藤武敏
山茶花や隙間に隠す宝物          大口彰子
谿深く岐るる流れ鵙の声          重富國宏
室咲や画廊に大理石の月         佐藤美智子
ひとりづつストーブに寄る舞台袖      中嶋文子

2021年1月

  氷釈の章        尾池和夫選
                    霞袂集
この谷にまだ先のある葛の花       尾池 葉子
葛咲いてこんな日にこそひだる神     長野 眞久
裏年の柿に没日の速さかな        大島 幸男
独酌を思はず過ごし鹿鳴く夜       原  稔
高稲架の投げ手受け手の調子よき     余米 重則

                    氷凌集
蛇穴に入るや知恵の輪元通り       大口 彰子
鯖雲や出雲へ行かぬ道祖神        伊藤 武敏
鳶の影いよよ低きを穴まどひ       髙橋キセ子
大泣きの今日の我慢よ夜寒の子      佐藤美智子
けふの風吉兆として去ぬ燕        重富 國宏

2020年12月

  氷釈の章        尾池和夫選
                    霞袂集
小鳥来る万円筆に足すインク       友永美代子
望の夜の杭に平家物語          有岡 巧生
ひるがへり合うて帰燕の日の近し     大島 幸男
新豆腐しかと木綿の布目跡        原  稔

                    氷凌集
鰯干す空に鳶ゐて猫が地に        余米 重則
鵙高音神宮林を統べにけり        岡橋 啓二
暗算の得意なる子に木の実降る      大口 彰子
手火熨斗に書く梶の葉の無の一字     松本 節子
躓きて深酒と知る夜半の月        重富 國宏


2020年11月

  氷釈の章        尾池和夫選
                    霞袂集
小鳥来る他郷と云ふも住み古りて     友永美代子
椅子はみな森へ向きたり今朝の秋     尾池 葉子
盆花や生者たがひに距離を置き      長野 眞久
約束の場所はすぐそこ時計草       大島 幸男
単線の脇まで寄せ来蕎麦の花       原  稔

                    氷凌集
もう一つおまけの如く星流る       余米 重則
飛魚や地震に沈みし神の磐        岡橋 啓二
梅を干す天神さんと同じ日に       重富 國宏
七夕や小笹に願ひ重すぎて        吉田 恭子
宇宙人の水切り遊び星流る        伊藤 武敏

2020年10月

  氷釈の章        尾池和夫選
                    霞袂集
郭公の遠鳴牧を横切つて         尾池 葉子
片陰の尽きてぽつんと駅舎あり      長野 眞久
田仕事に出はらふ里の立葵        大島 幸男
泉にて憩へば波郷身に近し        三和 幸一
客が来て土間の生簀の鰻裂く       原  稔

                    氷凌集
夕暮の風拾はむと江戸風鈴        余米 重則
道狭き昭和の団地蟬しぐれ        岡橋 啓二
黒南風や浅間の微動レベル二に      伊藤 武敏
虫送り火の粉渦なす千枚田        吉田 恭子
英吉利の漱石かくや梅雨の鬱       重富 國宏

2020年9月

  氷釈の章        尾池和夫選
                    霞袂集
七十五年祈りは尽きず沖縄忌       友永美代子
羽抜鳥軍靴の音が聞こゆるか       有岡 巧生
鴨川の流れ引き入れ藻刈舟        尾池 葉子
後脚に怯へを見せて鹿の子かな      長野 眞久
九頭竜の水引く生簀鮎の宿        原  稔

                    氷凌集
廃仏の傷もつ羅漢走り梅雨        伊藤 武敏
解く人のなき舫ひ舟南風吹く       余米 重則
焼夷弾降りきし空へ大花火        重富 國宏
郭公の一声谷を深めけり         松本 節子
汗ばみし小銭差し出す心太        岡橋 啓二


2020年8月

  氷釈の章        尾池和夫選
                    霞袂集
永らへて故郷の新茶しみじみと      友永美代子
宇治川の流れ去なせる鮎の竿       尾池 葉子
薔薇の前この気後れは何ならむ      長野 眞久
草の野を漕ぎゆく先の花樗        大島 幸男
年縞の湖の主通し鴨           原  稔

                    氷凌集
小満やつながつてゐる椅子机       大口 彰子
こだま瘦せ戻る立夏の奥秩父       伊藤 武敏
対岸はアメリカ西部花水木        余米 重則
牡丹の揺れ通しなり出城址        佐藤美智子
天道虫飛び発つ翅を立てにけり      松本 節子

2020年7月

  氷釈の章        尾池和夫選
                    霞袂集
一盞を褒めて下戸なり花月夜       尾池 葉子
嶺越しの風の明るき蕨摘み        長野 眞久
流るると見えて澱の紅椿         大島 幸男
根巻きせるものを後ろに苗木市      三和 幸一
船小屋の網の繕ひいかのぼり       原  稔

                    氷凌集
どの像も髭を蓄へ風光る         余米 重則
植込みのこんなところに花通草      髙橋キセ子
ふらここや肩の力の抜き加減       大口 彰子
初蝶や新生代の千葉時代(チバニアン)  伊藤 武敏
生垣の高きにほのと花あけび       城島 千鶴

2020年6月

  氷釈の章        尾池和夫選   
                    霞袂集
宿に脱ぐあす峰入の藁草履        有岡 巧生
啓蟄や風去りてより星の出て       尾池 葉子
平凡な日々を綴れば風光る        長野 眞久
浅瀬から覗く背鰭や水温む        大島 幸男
町おこしの青年移住初つばめ       原  稔

                    氷凌集
ものの芽のざわめく森の美術館      余米 重則
家ぢゆうの時計を伏せて春の夢      大口 彰子
春の川跨げば足るに石の橋        伊藤 武敏
晴れてなほ人の恋しき雨水かな      城島 千鶴
磯の香を逃さぬやうに海苔炙る      重富 國宏

2020年5月

  氷釈の章        尾池和夫選   
                    霞袂集
御僧と向ひ合せの春火鉢         有岡 巧生
北東風や海へ出てゆく波がしら      尾池 葉子
春すでに水影草に日のこぼれ       長野 眞久
猛る時もつとも美しき里神楽       大島 幸男
春浅し竹屋の土間に縄の束        三和 幸一

                    氷凌集
梅が香や昔粉屋の水車みち        城島 千鶴
ひと袋とつくに空ラ よ雛あられ      服部喜美子
簪を引つ詰め髪に春きざす        宮城 節子
山稜は白きたてがみ山笑ふ        遠藤 長代
福州園孔子足下の蝶二頭         屋嘉比順子

2020年4月

  氷釈の章        尾池和夫選    
                    霞袂集
この里の自慢の棚田初明り        有岡 巧生
初富士を過ぎ夕方の初比叡        尾池 葉子
適業は農業とあり初神籤         長野 眞久
福笹や大和大路の往き戻り        大島 幸男
原子炉の岬揺るがす鰤起し        原   稔

                    氷凌集
溶解炉脇に小さき鏡餅          伊藤 武敏
このまちのあの時の土水仙花       大口 彰子
曇天の空を開きぬ寒椿          吉田 恭子
餓鬼大将に全勝したる喧嘩独楽      重富 國宏
白川の浅きを歩む寒の鳥         城島 千鶴


2020年3月

  氷釈の章        尾池和夫選    
                    霞袂集
頑固さが顔に出てゐる焼芋屋       有岡 巧生
かささぎの空巣に裸木の高さ       尾池 葉子
何待つとなくひとりゐて霜の声      長野 眞久
なにやらのいはくの札や銀杏散る     大島 幸男
猪鍋や鴨居分厚き山の宿         原   稔

                    氷凌集
落日や鯉跳ぶ音へ鳰の首         伊藤 武敏
露座仏の膝に冬蝶石と化す        余米 重則
六屯の鐘撞き継いで去年今年       四宮 陽一
一撞きに萬の願ひを師走来る       吉田 恭子
冬銀河時間の糸をほどきけり       大口 彰子

2020年2月

  氷釈の章        尾池和夫選    
                    霞袂集
神苑の木戸開いてゐる神の留守      有岡 巧生
柩閉づるときさはさはと菊香る      長野 眞久
その底に小さき花あり枯葎        大島 幸男
先生の机に白き冬の薔薇         尾池 葉子
寄る歳に追ひつ追はれつ花八手      原   稔

                    氷凌集
凩や軽くなりたる雑木山         佐藤美智子
散紅葉魔法の絨毯やも知れぬ       大口 彰子
柿簾唱歌の里にゐるがごと        伊藤 武敏
落葉掃の日課となりて老医かな      余米 重則
蔦枯るる煉瓦造の発電所         城島 千鶴

2020年1月

  氷釈の章        尾池和夫選    
                    霞袂集
山麓に艾草売る店鳥渡る         有岡 巧生
朝まだきコウヤマンネンゴケに露     尾池 葉子
萩の道この淋しさは何ならむ       長野 眞久
沈む陽の透けて芒が原の路        大島 幸男
野良仕事ひとつ終へれば秋深し      原   稔

                    氷凌集
カンバスの白き地塗りや割柘榴      余米 重則
内戦の深き弾痕秋暑し          四宮 陽一
樽柿や風はや光りだす会津        伊藤 武敏
月を待つ蹲踞の水溢れしめ        吉田 恭子
日と風と適ひて茸干し上る        佐藤美智子

2019年12月

  氷釈の章        尾池和夫選    
                    霞袂集
とりどりの雲競ひ合ふ野分あと      友永美代子
木の実落つただそれだけの日なりけり   有岡 巧生
青空にもつとも近き盆の家        尾池 葉子
灯の透きて秋の簾となりにけり      長野 眞久
乗換へて山近くなる吾亦紅        大島 幸男

                    氷凌集
石組に気勢競ひて秋の庭         原  稔
ふるさとの銀座通や秋の風        重冨 國宏
本棚の一冊逆さ秋灯し          大口 彰子
秋澄めり頂上へ打つ尾根の鐘       佐藤美智子
掌に余る形見の硯洗ひけり        吉田 恭子
冷ややかや仏は細き指をして       余米 重則

2019年11月

  氷釈の章        尾池和夫選    
                    霞袂集
家中の灯点して終戦日          友永美代子
空海も見たる不知火かと思ふ       有岡 巧生
病室に待つ名月となりにけり       尾池 葉子
墓じまひしたる更地や晩夏光       長野 眞久
大の字の痩せて月出る如意ヶ岳      大島 幸男

                    氷凌集
蛸壺は綱解かれて夏終る         余米 重則
末つ子のいつも真ん中秋の空       大口 彰子
馬塞に沿ふ馬の並足爽やかに       髙橋千画子
晩夏光湖底に昔日の暮し         佐藤美智子
秋めくや支へ木増ゆる寺の        原  稔

2019年10月

  氷釈の章        尾池和夫選    
                    霞袂集
武蔵野の山々つなぎ雲の峰        友永美代子
浮いてこい吾等人間探求派        有岡 巧生
萍を騒がせ鯉の産卵期          長野 眞久
雨団扇おくれがちなる夏芝居       尾池 葉子
夏見舞ひと文字替へて乱れけり      大島 幸男

                    氷凌集
そこのけと電気くらげの横泳ぎ      余米 重則
天地指す像の手のひら原爆忌       原  稔
境内をとばしる清水時太鼓        岡橋 啓二
白山の見えぬを指して梅雨の庭      佐藤美智子
緑蔭や尻逞しき馬車の馬         髙橋千画子

2019年9月

  氷釈の章        尾池和夫選    
                    霞袂集
絶ゆるなきわだつみの声沖縄忌      友永美代子
殺生のあとの閑けさ蟻地獄        有岡 巧生
海霧を来る三陸鉄道昼灯し        尾池 葉子
南風や十大弟子の強面          長野 眞久
水無月の学舎に近き喫茶店        大島 幸男

                    氷凌集
メビウスの帯に乗せたき蟻の列      余米 重則
あぢさゐや鞄持たせて駆け行く子     大口 彰子
神宮の旬日早き茅の輪かな        重富 國宏
伊集の花散つて気根に戻しけり      屋嘉比順子
時の日や電波時計のあいそなし      原  稔

2019年8月

  氷釈の章        尾池和夫選    
                    霞袂集
夏めくやさくさくと切る生野菜      友永美代子
更衣いつもの吾がゐて遺憾        有岡 巧生
いづれまた火の山となる新樹かな     尾池 葉子
若竹のまだ風呼ばぬ青さかな       長野 眞久
銅像の蒼き涙や椎若葉          大島 幸男

                    氷凌集
太刀舞を継ぎ若者の祭足袋        余米 重則
逆立ちの震へ小刻み若葉風        大口 彰子
農道に水の溢るる田植時         佐藤美智子
船頭の筑後なまりや遊び舟        重富 國宏
記念樹の屋根に届くや子供の日      原  稔
雲版の一打に夏の立ちにけり       松本 節子

2019年7月

  氷釈の章        尾池和夫選    
                    霞袂集
岩礁に釣人残し春の船          尾池 葉子
鶯の結語五音に納めたる         長野 眞久
掌に零す薄荷油霾ぐもり         大島 幸男
岩盤に残る化石や花こぶし        三和 幸一
初夏の珊瑚の海やぬちぐすひ       矢削みき子

                    氷凌集
高きより棟梁の指示風光る        余米 重則
遣り水の七曲りして花筏         松本 節子
舟屋より出て春光へ舳先向け       柴田 靖子
散髪の後の鼻歌春の虹          大口 彰子
京大のロゴの樟若葉せり         重富 國宏

2019年6月


  氷釈の章        尾池和夫選    
                    霞袂集
雛の夜の二段ベッドの上と下       有岡 巧生
一礼に去る大仏の春の闇         尾池 葉子
春陰や鳥の眼をして風を読む       長野 眞久
淀川の始まる辺り野火烟る        大島 幸男
白魚に大きすぎると言ふ理由       矢削みき子

                    氷凌集
金メダルかけて呉るる子つばくらめ    大口 彰子
磯漁の魚分け合ふ浜うらら        原   稔
水郷と呼ばるる在の下がり雛       重富 國宏
別件は遊びの誘ひ水温む         余米 重則
鷹化して鳩となり児に追はれけり     佐藤美智子
大原の霞へ帰る野菜売          柴田 靖子

2019年5月

  氷釈の章        尾池和夫選    
                    霞袂集
さにつらふ色に芽の出る雨水かな     尾池 葉子
春遅しバスの手摺の静電気        長野 眞久
石垣の石の隙間に春兆す         大島 幸男
灯明のひとすぢに春立ちにけり      三和 幸一
土のにほひ水のにほひや木の根明く    矢削みき子

                    氷凌集
薄氷や光溶けゆく水の中         吉田 恭子
鬼は内むかし九鬼氏の城下町       重富 國宏
麦踏むやタッチはげしきゴッホの絵    余米 重則
耳長き犬の飛び付くしやぼん玉      大口 彰子
杉玉の軒に吹き溜め玉霰         松本 節子

2019年4月号

  氷釈の章        尾池和夫選
                    霞袂集
賀状読む一枚づつを声にして       友永美代子
待春や横向けといふ似顔絵師       有岡 巧生
鷽替の渦や気づけば外へ外へ       尾池 葉子
風花をいひ平城山をふりかへる      長野 眞久
みづうみの波かさねあふ春隣       三和 幸一

                    氷凌集
昆虫の標本並ぶ寒さかな         大口 彰子
花びらのガラスと化しぬ寒の薔薇     余米 重則
荒々と馬が土搔く鳥総松         吉田 恭子
箸紙に恙なき名を十いくつ        柴田 靖子
海苔篊の有明海を埋めてをり       重富 國宏
襖絵の鶴立つさまを淑気とも       本庄百合子

2019年3月号

  氷釈の章        尾池和夫選    
                    霞袂集
太白星の寒さ類族改め帳         尾池 葉子
枯蓮のもう触れ合ふといふをせず     長野 眞久
十一面のひとつが後ろ冬深し       大島 幸男
年惜しむ杉の古木に手を当てて      三和 幸一
糠床と労ひ合うて小晦日         矢削みき子

                    氷凌集
珈琲にはこのチョコレート冬日向     余米 重則
湯豆腐やひと雨きたる苔の庭       松本 節子
抜き足の次は差し足池普請        重富 國宏
靴下に溢るる駄菓子クリスマス      大口 彰子
相輪の空突く高さ山眠る         吉田 恭子

2019年2月号

  氷釈の章        尾池和夫選    
                    霞袂集
忘れゐし友の名忽と鵙の朝        友永美代子
下京へ時雨の雲の至りけり        尾池 葉子
枯蓮のもう触れ合ふといふをせず     長野 眞久
短日や幾度も峰を振返り         大島 幸男
いつの世の鏃跡とや日向ぼこ       矢削みき子

                    氷凌集
小春日や吠ゆる仔犬の名はサスケ     余米 重則
寒昴指もて示すあの辺り         重富 國宏
寒鰤や力士のやうに塩を振る       大口 彰子
垣根なき隣と落葉焚きにけり       原  稔
初冬の波遊びたる島嶼かな        屋嘉比順子

2019年1月号

  氷釈の章        尾池和夫選    
                    霞袂集
話また久女に戻る菊枕          有岡 巧生
白露や灯のつつましき屋敷町       尾池 葉子
龍淵に潜み青空堕ちてきし        長野 眞久
火の山の微かな煙蕎麦を刈る       大島 幸男
みづうみと言ふ月光の器かな       三和 幸一

                    氷凌集
ベネチアの仮面の笑ふ夜寒かな      余米 重則
鹿垣をつくろふ村の役となり       原   稔
奥嵯峨の竹伐る音の響きあふ       松本 節子
秋日受け岩の錆びなる黄金色       重富 國宏
半眼の麒麟の咀嚼天高し         大口 彰子