京都の地球科学(二九七)    2019年1月号    奈良盆地の活断層(五)                        尾池和夫  全長約四四四キロの中央構造線活断層帯は、過去の活動時期、断層の形状、 平均的なずれの速度などから、全体を一〇区間に分けて考えることになった。  それらは@金剛山地東縁区間、A五条谷区間、B根来区間、C紀淡海峡│鳴 門海峡区間、D讃岐山脈南縁東部区間、E讃岐山脈南縁西部区間、F石鎚山脈 北縁区間、G石鎚山脈北縁西部区間、H伊予灘区間、およびI豊予海峡│由布 院区間である。  この活断層帯は、全体としては右横ずれの運動を主としながら、上下のずれ を伴う断層帯である。断層帯の最東端の金剛山地東縁区間では、断層の西側が 東側に対して相対的に隆起する逆断層運動をしており、断層帯の西端部の豊予 海峡│由布院区間では、主として北側が沈降する正断層型の運動をしている。   桜ゆさゆさと活断層の上         加古宗也  それぞれの区間の特徴を列挙する。まず、金剛山地東縁の奈良県香芝市から 五條市付近までの区間の最新活動は、西暦紀元一世紀以後で、かつ三世紀以前 であったと推定される。一回の活動に伴う上下方向のずれの量は一メートル程 度であった可能性がある。その平均的な活動間隔は、約六千ないし七千六百年 であった可能性がある。  和泉山脈南縁のうち、奈良県五條市から和歌山県紀の川市付近までの区間 (五条谷区間)の最新活動は、約二千二百年前以後、七世紀以前であったと推 定された。一回の活動に伴う右横ずれ量は三メートル程度であった可能性があ る。平均的な活動間隔は不明である。  和泉山脈南縁のうち、和歌山県紀の川市から和歌山市付近に至る区間(根来 区間)の最新活動は、七世紀以後で、八世紀以前であったと推定され、一回の 活動に伴う右横ずれ量は四メートル程度であった可能性がある。平均的な活動 間隔は約二千五百年ないし二千九百年であった可能性がある。  和歌山市付近ないしその西側の紀淡海峡から鳴門海峡に至る区間(紀淡海峡 │鳴門海峡区間)の最新活動は、約三千一百年前以後、約二千六百年前以前で あったと推定され、一回の活動に伴う右横ずれ量は四メートル程度であった可 能性がある。その平均的な活動間隔は、約四千ないし六千年であった可能性が ある。  四国東端の徳島県鳴門市付近の、鳴門断層から美馬市付近の井口断層に至る 区間(讃岐山脈南縁東部区間)の最新活動は、一六世紀以後であったと推定さ れ、一回の活動に伴う右横ずれ量は二ないし七メートル程度であった可能性が ある。その平均的な活動間隔は約九百│一千二百年であった可能性がある。  徳島県美馬市付近の三野断層から愛媛県新居浜市付近の石鎚断層に至る区間 (讃岐山脈南縁西部区間)の最新活動は、一六世紀以後、一七世紀以前であっ たと推定され、一回の活動に伴う右横ずれ量は二ないし七メートル程度であっ た可能性がある。その平均的な活動間隔は約一千│一千五百年であった可能性 がある。  愛媛県新居浜市付近の岡村断層による区間(石鎚山脈北縁区間)の最新活動 は、一五世紀以後であったと推定され、一回の活動に伴う右横ずれ量は六ない し八メートル程度であった可能性がある。その平均的な活動間隔は約一千五百 │一千八百年であった可能性がある。  愛媛県西条市付近の川上断層から松山市付近の重信断層に至る区間(石鎚山 脈北縁西部区間)の最新活動は、一五世紀以後、一八世紀以前であったと推定 され、一回の活動に伴う右横ずれ量は二ないし五メートル程度であった可能性 がある。その平均的な活動間隔は約七百│一千三百年であった可能性がある。  愛媛県松山市付近の伊予断層から伊予灘に至る区間(伊予灘区間)の最新活 動は一七世紀以後、一九世紀以前と推定され、一回の活動に伴う右横ずれ量は 二メートル程度であった可能性がある。その平均的な活動間隔は約二千九百│ 三千三百年であった可能性がある。  豊予海峡から大分県由布市付近の由布院断層に至る区間(豊予海峡│由布院 区間)の最新活動は一七世紀頃であったと推定され、一回の活動に伴う上下ず れ量は二ないし五メートル程度であった可能性がありる。その平均的な活動間 隔は約一千六百ないし一千七百年であった可能性がある。   桜二世代中央構造線の上         尾池和夫  この最後の区間のように、最新活動が一七世紀頃で、かつ活動間隔は約一千 六百ないし一千七百年であれば、次の本格的な活動、つまりそこの大規模地震 が起きる時期は、かなり先のことであると言える。それを知れば、その地域で は直下の大地震のことを心配せずに、安心して暮らすことができる。  このような安全であるという情報をどうやって地域の行政方針や地域の市民 活動に活かしていくことができるかということを私はいつも考えているが、な かなか上手い方法が見つからない。活断層という言葉だけで、それを怖いとい う概念でしか見ない人が多いように思う。  逆に東の部分のように、数千年前に活動したということが分かっていれば、 そろそろ確実に次の大地震に備えておかなければならないということを、その 地域の行政の基本とするとともに、その地域の市民にそのことを何とかして伝 えなければならないが、これもなかなか上手い方法がみつからない。過去の例 が示すように、大地震の後、「まさかここに」という言葉が聞かれることにな る。